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大分地方裁判所 平成6年(わ)72号 判決

本店所在地

大分県佐伯市大字戸穴五九五番地

藤沢商店有限会社

(右代表者代表取締役 藤澤素直)

本籍

大分県佐伯市大字戸穴五九五番地

住居

右同

会社役員

藤澤素直

昭和一五年三月二九日生

右の者らに対する法人税法違反被告事件について、当裁判所は検察官藤田信宏出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人藤沢商店有限会社を罰金一〇〇〇万円に、被告人藤澤素直を懲役一年に処する。

被告人藤澤素直に対し、この裁判の確定した日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人藤澤商店有限会社は、大分県佐伯市大字戸穴五九五番地に本店を置き、一般建築材料の販売等を営むもの、被告人藤澤素直は、被告人会社の代表取締役として業務全般を統括しているものであるが、被告人藤澤素直は、被告人会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上の一部を除外するなどの方法により所得を秘匿した上

第一  平成元年五月一日から同二年四月三〇日までの事業年度における被告人会社の実際所得金額が三六、六八八、四五四円あったのにかかわらず、同年六月三〇日、大分県佐伯市蟹田九番五号所轄佐伯税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二、四〇三、〇〇二円で、これに対する法人税額が六七五、三〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額一三、七七三、六〇〇円と右申告税額との差額一三、〇九八、三〇〇円を免れ

第二  平成二年五月一日から同三年四月三〇日までの事業年度における被告人会社の実際所得金額が三八、三〇〇、五一七円あったのにかかわらず、同年六月二九日、前記佐伯税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が四、六九六、〇三六円で、これに対する法人税額が一、二七八、五〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額一三、五六六、一〇〇円と右申告税額との差額一二、二八七、六〇〇円を免れ

第三  平成三年五月一日から同四年四月三〇日までの事業年度における被告人会社の実際所得金額が三九、二〇〇、四〇四円あったのにかかわらず、同年六月三〇日、前記佐伯税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が六、二九二、三三四円で、これに対する法人税額が一、七二五、二〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額一三、九〇三、四〇〇円と右申告税額との差額一二、一七八、二〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

注 括弧内の番号は検察官請求の証拠番号を示す。

判示事実全部につき

一  被告人兼被告人会社代表者藤澤素直の当公判廷における供述

一  被告人兼被告人会社代表者藤澤素直の検察官に対する供述調書一一通

一  藤澤時枝の検察官に対する供述調書一〇通

一  源修三の大蔵事務官に対する供述調書

一  大蔵事務官作成の

1  売上調査書

2  期首棚卸調査書

3  期末棚卸調査書

4  受取利息調査書

5  雑収入調査書

6  新規土地の利子損金不算入調査書

7  事業税認定損調査書

判示第一の事実につき

一  大蔵事務官作成の脱税計算書(甲2)

一  検察事務官作成の「確定申告書の謄本作成について」と題する署面(甲5)

一  大蔵事務官作成の仕入調査書

判示第二の事実につき

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(甲3)

一  検察事務官作成の「確定申告書の謄本作成について」と題する書面(甲6)

判示第三の事実につき

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(甲4)

一  検察事務官作成の「確定申告書の謄本作成について」と題する書面(甲7)

一  大蔵事務官作成の雑損失調査書

(法令の適用)

一  罰条

被告人会社につき、いずれも法人税法一六四条一項、一五九条

被告人藤澤につき、いずれも同法一五九条

一  刑種の選択

被告人藤沢につき、いずれも懲役刑

一  併合罪加重

被告人会社につき、刑法四五条前段、四八条二項

被告人藤沢につき、同法四五条前段、四七条本文、一〇条(重い判示第一の罪の刑に法定の加重)

一  刑の執行猶予

被告人藤沢につき、同法二五条一項

(量刑の理由)

本件は、主として被告人会社の将来の経営悪化に備える目的のもとに、売上金額を除外したり、期末棚卸し金額を除外する等の方法によって、三事業年度の法人税合計三七五六万四一〇〇円を免れた事案であるところ、将来の経営に対する配慮、準備は事業経営者として普遍のことで、独り被告人藤澤のみがかかる方法を許される理由はなく、何ら有利な動機となりえないことは言うまでもない。そして、被告人が法人税を捕脱したのは右三事業年度に止まらず、被告人会社の設立(昭和五六年)以降恒常化していことが窺われ、被告人藤澤の納税意識の低さを示すものといわざるを得ず、かかる行為が租税の公平負担の原則や誠実な納税者の納税意欲に及ぼす影響の点も重大で、また、三事業年度の捕脱率がいずれも九割を超える点も看過できず、被告人藤澤は厳しい非難も免れない。

しかしながら、他方、被告人藤澤は、捜査段階から当公判廷を通じて素直に事実を認めて反省の情を示していること、査察が開始されるや速やかに修正申告をなし、本税及び関連する諸税も完納していること、本件の動機は前記のとおりであるが、遊興や奢侈に使用されることはなかったこと、同被告人は、二回罰金刑を受けているが、いずれも交通関係の古いもので、もとより同種前科はなく、本件を除きこれまで非難される行為もなく、真面目に稼動してきたこと、本件の検挙や報道等により相応の社会的制裁を受けたと認められること、今後の方針として税理士の指導監督を受けるなど経理体制の改善を図っており、その反省の情と相まって再犯の恐れはないと認められること等同被告人に有利に斟酌すべき諸事情もあるので、これらを総合考慮して前記のとおり各量刑し、被告人藤澤に対しては懲役刑の執行を猶予することとした次第である。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 矢野清美)

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